30歳がくる!

息詰まったら書く

明日はうんと遠くへ行こう/角田光代 読んだよ

明日はうんと遠くへ行こう

「主人公があなたに似ている気がする」と先輩に貸してもらった角田光代の「明日はうんと遠くへ行こう」を読んだ。

ろくに話したこともない同級生に大好きな曲を録音したカセットを渡し(しかもオススメの聴き方指南書付き)、「あいつこえーよ」と一蹴されてしまうような主人公、泉。

自分の世界に浸りがち。ロマンチックになりがち。恋心を育てすぎるあまり現実での行動が痛々しくなる。
「めんどくさい」。

もうこの時点で読んでいてツライ。私も余計なことを考えすぎて、いろんな恋をだめにしてきた。自分では哲学的に叙情的に思考しているつもりで、そんなセンスティブな自分が好きでもあって、「めんどくさい」「難しい」と罵るがさつな男なんて私に不釣り合いであるとまで思っていた時期もある。

でも泉は気づく。自分にはなにもない。そのときそのときの恋に溺れ、語彙を尽くして愛を語ったり不満を伝えたりして過ごした年月はなにも残してくれなかったと。
男が去った後の自分は、引っ越しで荷物を運び出した部屋のように、少しの床の傷だけを残してがらんとしている。

「筋肉みたいな、わかりやすい価値が欲しい」。

あーわかる。筋肉のような、誰が見ても一発で「良い」とされる価値が欲しい。女性なら大きな胸でもいいし細い脚でもいい。絶対的な評価を得られるものが自分にはなにもない。

部屋を間に合わせの安い家具や家電で埋めて、気づけば部屋に「私」がどこにもない。心も同じ。

そんな生活は、それでも最中に居る時は輝いているように思えるのに、突如として「なんて無価値なものに時間をかけたんだろう」と虚しくなる。

物語の最後に泉は少しだけ成長している。恋愛がすべてではなくなる。それは歳をとったからだと思う。

私も、この話は特別なものではないと気づく。
誰しもいつかは経験する物語。