30歳がくる!

息詰まったら書く

バカなフリして聞いてこい

「バカなフリして聞いてこい」という言葉は社会に出てから覚えた。

知っていて当たり前のことや聞きづらい物事について確認したい時、主に上司が部下に対して「おい、お前バカなフリして聞いてこい」というふうに使う。

社会において、「バカだから」というステータスは意外と武器になるのだと思うきっかけだった。むしろ、若手のうちはバカなふるまいができたほうが重宝される気がする。

少しのミスも「あいつは仕方ない」と目をつむってもらえたり、愛らしいマスコットのように、上司や会社のペットのように扱ってもらえる。

私はバカなフリができる人がずっとうらやましかった。
会社で、単純なミスを「うっかりしてました」と茶目っ気たっぷりに言える人がうらやましかった。

ほとんどのことは教わらなくともなんとなくできてしまうわりに、本当は人と話すことも、何かを計画することも人並かそれ以下だと、二十歳を超えてから気付いた。

けれど、今更。と、自尊心から弱みを見せることもできず、「一から教えてください」が言えない。

しれっとやってのけているようで、いつも緊張とプレッシャーに苦しんでいた。やがてメッキが剥がれ出すと周りは驚きと落胆の色を隠さず、バカでもない、「本当にできないやつ」の烙印を押した。

怒られ慣れていないので、当たり前のことを注意されるだけで頭がカーッとなる。ずっと、周りの目が気になって仕方ない。

本当は誰も気にしてないかもしれない。
でも私にとっては「本物のバカ」と心の中で嘲笑われているようで、一日そのことが頭から離れない。

「バカなフリして」ができないまま四半世紀生きて、自尊心だけが高い、使い物にならない本当のバカができてしまったと感じた。


こういう人は他にもいると思う。
はじめから、何もできないほうが幸せだった。