30歳がくる!

息詰まったら書く

綿矢りさ「ひらいて」雑感

私、本を読みながら
グッときた頁を折るんです。

突然「あの本のあの台詞が読みたい!」となることがあるので、
折り目をつけておくと便利です。

そしてその折り目の数は、
当然「良かった」の指標となるのですが…

今回はf:id:sweet_pan:20150814194329j:image

こんな感じで。

もう最高だったんです。

「一番好きな人に好きになってもらえない」このもどかしさや悲しみの表現が、綿矢りさは完璧だから。
も〜主人公の暗い暗い独白部分をずっと読んでいたいです。
自分と重ね合わせて、昔の恋愛思い出してはエモい気分になって、そして、そんな自分に酔いたい。と思いました。


えー、さて、主人公の「愛」が恋する相手は高校のクラスメートです。
陰があって、つかめない彼のことをみんなは「地味なヤツ」としか思っていない。でも私は、私だけは彼のことをこんなにも欲している。理解している。
そんな主人公の増幅しきった独占欲が、失恋をきっかけに暴走するんですね。

《恋をして初めて気づいた。私はいままで水を混ぜて、味がわからなくなるくらい恋を薄めて、方々にふりまいていたんだ。いま恋は煮詰め凝縮され、彼にだけ向かっている》

《一生に一度の恋をして、そして失った時点で自分の稼働を終わりにしてしまいたい。二度と、他の人を、同じように愛したくなんかない。》
この小説は恋愛小説としても非常に優れているのは言うまでもないんですが、
意外と本質はそこにはなかったりします。

それがタイトルにもなっている「ひらいて」と関係していると思われます。

例えばこんな一文。

《私はまだ一度も彼を揺さぶっていない。敗北の悔しさに心に血がにじむ》

思うように相手の心を動かせないこと。もはや、好きになって欲しいを超えた願望。ただ彼の心をどうにか震わせたいという目的に変わってきています。

しかし物語の終盤、その願いが叶わなかった絶望感を主人公は覚えます。

《二人は私を、無視しても拒否してもいない。でもそれが余計に私と彼らの間の見えない壁を感じさせる。》

決して入り込めない隙間。
お互い「ひらいた」者達は、見えない何かで繋がって、他の者を寄せ付けない。

どんな人も承認欲求を持っています。
人によって差はあれど、自分のことを知って欲しい、見て欲しい、そんな気持ち。
でも主人公が求めたものはちがったのかもしれません。

《ささやかな繋がりを、いつもいつも求めている》

私達は繋がってないと不安になる。
だから色んな道具や名前や制度を使っては、誰かとつがいになりたがったり、なにかに所属したりする。

それでも満たされないことがある。
私達はもっと、たぶん
「ひらいて」欲しいんです。


おわり